こんにちは! ユメメです^^
今回は『ヒルガードの心理学』の第4編です。
人が何かを「感じる」仕組みを知りたい😃
この記事では以下の4点について解説していきます。
- 感覚様相の特徴
- 視覚
- 聴覚
- ほかの感覚
この記事を読むことで人の感覚過程を理解することができます。人の感覚過程を理解することで効率的な食事管理やダイエットに役立てることができるでしょう。
それでは、始めましょう!
目次
チャート1 感覚様相の特徴
あなたは今、スマホやパソコンのモニターに表示された文字を目で追うことでこの記事を読んでいます。
もしかするとカフェでコーヒーの香りを嗅いでいるかもしれません。
あるいは、窓の向こうからは車のエンジン音が絶え間なく聞こえているかもしれません。
普段あまり意識することはありませんが、私ちの生活にはさまざまな刺激情報に満ち溢れており、情報は絶え間なく私たちに影響しています。
しかしながら、常に外界から刺激が与えられているにもかかわらず、刺激の性質や刺激が人体にどのように影響するのかを考える人は少ないでしょう。
私たちの生活に影響を与える刺激に対する理解がないままに、自然体にそれを受け入れる。
これはなんと不思議なことでしょうか。
このチャートで取り上げるのは、そのような、私たちの生活と密接している五感と触覚です。
1-1 閾値感度
感覚は視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚に分けて構成されます。
触覚には圧力と温度と痛みが含まれます。
本記事ではこのような一つ一つの感覚や触覚の特徴を紹介しますが、
前段として、まずはすべての感覚に共通する特徴を解説していきます。
感覚や触覚において、共通する特徴として「強度」が重要な役割を持ちます。
例えば、光の強度は目に入ってくる光子の1秒あたりの個数ですし、音の強度は音圧波の振幅に対応します。
このような強度を定量的に測るため、多くの心理学者は種々の実験によってこれらを数値化しようとしてきました。
彼らが初めに行ったのは、強度を検出するため、あらゆる感覚に対する絶対閾と弁別閾を測定することでした。
絶対閾を観測することで1つの感覚様相の感度を評価することが可能になります。
つまり、ある刺激に対する絶対閾を観測することは、刺激に対応する感覚様相がいかに敏感かを測定することです。
例えば、「水の中に砂糖が入っているか?」「入っていないか?」を感知するためにはどのくらいの濃度が必要か?を観測するのです。
さまざまな研究により、感覚における最小刺激の近似値は以下の通りとされています。
感覚 | 最小刺激 |
視覚 | 晴れた暗い夜に30マイル(48.28km)離れたところから見たロウソクの炎 |
聴覚 | 静かな状況で20フィート(6.1メートル)離れたところにある時計の進む音 |
味覚 | 2ガロン(7.57リットル)の水の中の茶匙1杯分の砂糖 |
嗅覚 | 6部屋に相当する容積全体へ拡大した1滴の香水 |
触覚 | 1センチメートルの高さから頬に落ちてきた蝿の羽 |
このような絶対閾の測定は、実験者がさまざまに強度を変えた刺激を被験者に与え、被験者の「見える」や「かろうじて見える」といった「ハイ」の反応を記録して得られます。
図の通り、刺激強度が増加するにつれて「ハイ」と応答する割合が増加しています。
また、前述の絶対閾については50%で検出される刺激の値として定義されます。
第4章 感覚過程 図4-1 検出実験に基づく心理物理関数 より
一方で、弁別閾はゼロから区別できるようにするためにゼロからどれだけ刺激強度を上げなければならないか、という刺激の量によって決定することができます。
丁度可知差異、すなわち、2つの刺激を区別するのに必要な刺激の大きさの最小の差異を観測するということです。
例えば、食品開発の現場を思い浮かべてみましょう。
ここでは「食品添加物が何グラム含まれていれば消費者が添加物の味を知覚するのか?」といった答えが求められます。
これはまさに丁度可知差異によって判断される事例でしょう。
そして、さまざまな研究により、感覚における丁度可知差異は以下の通りとされています。
質 | 丁度可知差異 |
光の強度 | 8% |
音の強さ | 5% |
音の周波数 | 1% |
においの濃度 | 15% |
塩の濃度 | 20% |
挙重実験 | 2% |
電気ショック | 1% |
このような弁別閾の測定は、実験者がさまざまに強度を変えた刺激を被験者に与え、被験者が「より多い」や「より強い」といった反応を記録して得られた結果です。
塩の濃度の丁度可知差異は20%です。
つまり、塩分濃度が19%増加しても「しょっぱい」と感じないことを意味します。
多くの人が塩分過多になりやすい現状をよく表している結果でしょう^^;
1-2 信号検出理論
心理学の分野では信号検出理論という理論があります。
少し遠回りになりますが、信号検出論理を理解するために、アメリカで実際に起きた医療過誤訴訟を紹介しましょう。
放射能医であるA医師は、日常業務の中で患者であるP氏胸部レントゲンを調べました。
A医師によって「異常なし」と診断された3年後、別の医師、B医師によって患者P氏のレントゲンが再度調べられました。
この時、不幸にもP氏の胸部レントゲンには腫瘍が認められ、すでに肥大していたため、結果的にP氏の死を招きました。
これを受け、患者P氏の遺族はA医師の医療過誤をめぐる訴訟を起こし、3年前のレントゲン写真で腫瘍を見落としたとしてA医師の誤診を追求したのです。
「A医師は腫瘍を見落としたのか?」を判断するため、3年前のレントゲン写真はB医師によって再度確認されることとなりました。
再確認の結果、B医師の見解は「腫瘍が認められる。」というものでした。
果たして、3年前に下したA医師の診察は誤診だったのでしょうか?
この問題に対して、心理学者は一つの示唆を与えています。
信号検出理論は、刺激を検出する過程を2つの数に分解することで信号の存在の有無を検出することが可能である。とした理論です。
この2つの要素とは何か?
それは信号と雑音です。
- 「信号」とは、情報の重要な関連部分のことです。
例えば、先ほどのアメリカの医療過誤訴訟でいうと、「腫瘍」が信号にあたります。
- 「雑音」とは、情報の重要ではない無関係部分のことを指します。
例えば、先ほどのアメリカの医療過誤訴訟でいうと、「腫瘍以外の影」が雑音にあたります。
つまり、「腫瘍がある」と判断できた場合、信号検出理論では「雑音の中から信号を適切に検出できた」と判断されます。
1-3 ヒットと誤警報
信号検出理論によると、身近に溢れる刺激情報には「信号」と「雑音」がある。
そして、正しく「信号」を検出することができた場合、これを「ヒット」と表現します。
この反対に、誤って「信号」を検出した場合を「誤警報」と表現します。
信号検出理論によって、「どの程度の割合で正しく信号を検出したか?
これは「ヒット」の比率で測られます。これをヒット率といいます。
ヒット率と誤警報の解釈は以下の通りです。
- ヒット率が誤警報率を大きく超える場合:感度が高い
- ヒット率が誤警報率を少ししか超えない場合:感度が低い
- ヒット率が誤警報率に等しい場合:感度がゼロ
ヒット率が誤警報率を超える条件の下でのみ、参加者が信号を検出しているのだと私たちは推論します。
つまり、数回の試行による雑音と信号の検出結果を観測することで感度の測定を行うということです。
1-4 感度とバイアス
信号検出理論によると、身近に溢れる刺激情報には「信号」と「雑音」があり、信号の検出には感度に影響されることがわかりました。
ここで、最初の命題に立ち戻ってみましょう。
「果たして、3年前に下したA医師の診察は誤診だったのか?」
という命題です。
次の画像は、ノイズに埋め込まれた信号の例です。
矢印で示された黒い影が信号でそれ以外は雑音です。
一番左の画像を見た場合、果たしてどれだけの人が正確に信号を読み取ることができるでしょうか?
信号があると分かった状態で画像を見れば確かに信号を検出できるかもしれません。
しかし、それは、「信号がある」というバイアスがかかっているから検出できたに過ぎません。
A医師は日常業務の中で患者P氏のレントゲンを調べました。
一方でB医師は「3年後に腫瘍が見つかった患者のレントゲン」というバイアスがかかった状態でレントゲンの確認を行いました。
つまり、A医師とB医師では感度は等しいにもかかわらず、バイアス値が全く異なる状態にあったといえます。
これが果たしてフェアな比較と言えるのでしょうか?
答えはNOです。
信号検出において最も重要なのはバイアスと感度を分離すること。
この基本的な構造を見落としてはいけません。
A医師には腫瘍の存在を期待する理由が僅かしかなかったのです。
過去の失敗を後になって「ちゃんとチェックしないから」や「だから注意しろと言ったのに」と非難されるケースがあります。
信号の検出には感度とバイアスがある。
当たり前の事ですが、このようなことを教えてくれるのが心理学という学問なのです^^
チャート2 視覚
スーパーの棚に陳列されたお刺身が新鮮かどうかを判断するために、あなたはどの五感情報を頼りにするでしょうか?
多くの人は見た目の色合いや、魚が捌かれトレーに盛り付けられた日、消費期限などから状態を判断するでしょう。
そこで頼りになるのが、視覚です。
2-1 眼球に関する生物学的理解
人間の五感は『視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚』によって構成されています。
このうち、視覚と聴覚と嗅覚だけは、離れたところにある情報を得ることができます。
つまり、人が目の前のものから何か情報を得たい時に真っ先に頼られるのが視覚であり、視覚が人間において最も精密に調整されているのです。
視覚が精密に調整されていることを知るには眼球に関する生物学的理解が必要になります。
眼球の生物学的理解のためには視覚に関する物理刺激がどのよう人体に作用するかを知る必要があります。
そして、その物理刺激こそが「光」です。
光は電磁エネルギーの一形態で、電磁エネルギーは波状に進むものとして知られています。
私たちの目はこの電磁エネルギーのおおよそ400ナノメートルから700ナノメートルまでの波長だけを認識しています。
400ナノメートルから700ナノメートルという限られた波長の光が目に入り、次の3つのステップを経ることで「ものを見る」ことができます。
- 目に入った光は眼球の奥にある薄い組織の層である網膜の上に物体の像を形成するため、物体から反射された光を焦点に集める。
- 像形成機構自体は角膜と瞳孔と水晶体からなり、角膜は、目の最前部にある透明な表面です。光はここから入り、これによって光線が内側に向けて曲げられて像の形成を始めます。
- 水晶体は、光を網膜状の焦点に集める過程を完結させます。
水晶体はさまざまな距離にある物体に焦点を合わせるために形を変えます。
例えば、遠いものを見ようとする場合、水晶体はより平べったく、近くのものを見る場合は丸く変形します。
40代に入ると多くの人が水晶体の形を変えたり、焦点を合わせる能力をのほとんどを失います。
これが、いわゆる老眼の仕組みです。
スマホやパソコンの普及により、現代人は近くのものを長い時間見続ける生活が定着しています。
しかし、このように近くばかりを見ていると水晶体の遠近調整機能を働かせる機会が減ってしまいます。
遠い景色眺める機会が少ない現代では、視覚低下が大きな問題になっているのです。
21年度からは小中学校で1人に1台、パソコンやタブレット端末を配って行うデジタル授業が本格的に始まりました。
「今後さらに視力低下の傾向が進めば、緑内障や黄斑変性など眼病を発症する人が増えるリスクがある」。丸山耕一・日本眼科医会理事は警鐘を鳴らしています。
2-2 光を見る
ものを見るには電磁エネルギーのおおよそ400ナノメートルから700ナノメートルまでの光が必要です。
例えば、夜道を歩く際、暗闇でも比較的道がよく見える時とそうではない時があります。
このように、「光を感じやすい」「光を感じにくい」のように光の感じ方には差があります。
では何が光の感度に影響しているのか?それはどのように測られるのでしょうか?
それは、錐体と桿体によって説明されます。
目には錐体と桿体と呼ばれる光の受容細胞があります。
白昼、あるいは十分に明るい部屋では錐体だけが活性化し、桿体は意味のある神経信号を発しません。
一方で、夜道や暗い部屋では桿体が活性化します。
桿体と錐体はそれぞれただ一つの神経細胞と接続されています。これは、例えば、錐体が光を受け取ると対応する神経細胞が活性化することを示します。
例えば映画館に入ったときを思い浮かべてみましょう。
始めは、暗闇でほとんど何も見ることができませんが、数分もすればスクリーンや間接照明から発せられるわずかな光を頼りにチケットに印字された自分の席を探すことができるはずです。
錐体が優位な状態から桿体が優位な状態に切り替わる。一般的にな言葉で表現すると「暗がりに目が慣た」状態です。
この実験から、明るいところから夜道などの暗がりに出た時は、初めの10分は普段以上にの注意を払うべきである。ということが言えそうです^^
暗闇に目が慣れるまでどのくらいの時間がかかるか?これは次に紹介するような実験によって明らかになっています。
実験での参加者は網膜が明順応するまで明るい光を見た後、暗闇に置かれます。すると参加者は次第に光に対して敏感になります。
これを暗順応といい、暗闇の中にいる時間と光強度の閾値をプロットしたものを暗順応曲線といいます。
このグラフで注目すべきは、約10分のところで桿体が優位な状態、つまり、桿体視に切り替わるということです。
2-3 パターンを見る
視力検査でお馴染みの「C」のマーク。
このマークの欠けている部分がどの方向を向いているかを答えるのが視力検査です。
言い換えると図形の特徴を検出すること、つまり、視力とは、細部を解像する能力を指します。
視力検査で最もよく見られる測定器具は、1862年にオランダの眼科医、ヘルマン・スネレンによって考案されました。
この検査は、一定の離れた距離から検出すべき特徴を同定することで視力を測定する検査です。
例えば、私たちはしばしば「視力が良い」といった場合、遠くのものがよく見えると考えます。
しかし、スネレン視力によって測られる視力とは、単に、明から暗へ明るさの変化が存在する視野の領域を測っているに過ぎないのです。
スネレン視力によって測られる視力とは、明から暗への明るさの変化ですので、スネレンの視力検査をめぐっては「明暗を弁別するだけが視力の良さではない」という見方もあります。
私たちが普段意識せずに行っている視力検査。これによって測られる「視力」とは、物の明暗を判断しているだけだったのです。
言い換えると、桿体と錐体の能力を測っているということです。
2-4 色を見る
例えば、リンゴは赤、バナナは黄色。普段意識することは少ないですが、私たちは自然に色を識別しています。
チャート2-1で述べた通り、可視光は400ナノメートルから700ナノメートルまでの波長です。
私たちの視覚系は波長を色に変えることで異なる「色」を知覚しています。
そして、波長と色には以下のような関係が成り立ちます。
- 短い波長(450-500ナノメートル)⇨青
- 中間の波長(500-570ナノメートル)⇨緑
- 長い波長(約650-780ナノメートル)⇨赤
では、異なる波長に対して視覚系がどのように働くのか?これは色の知覚過程がヒントを与えてくれます。
色の知覚過程において、一般的に「三色説」と「反対色説」が知られています。
三色説は異なる波長を3つの受容器(錐体)において異なる反応を生じることで色を弁別するとした考え方です。三色説では、
S錐体は短い波長(青)
M錐体は中間の波長(緑)
L錐体は長い波長(赤)
をよく認識できるとしています。
この図は三色説によって提案された3つの受容器による波長別の相対的な反応を示した図です。
この三色の組み合わせによって様々な色を認知すると考えられています。
第4章 感覚過程 図4-21 三色説 より
反対色説は1878年にドイツの生理学者エヴァルト・ヘリングによって提唱されました。
ヘリングの反対色説によると、全ての色は赤、緑、黄、青の感覚の1つないし2つから成り立っているとしています。
反対色説を理解するために、1枚目の写真の中心にある黒い点を1分間しっかりと見た後、2枚目の写真の中心にある黒い点を見てみましょう。
元の色がぼんやりとした像として浮かび上がってきたはずです。
これは視覚系が2つの反対色に対してそれぞれ補色的に色を認識した結果です。
つまり、1つは赤または緑に反応し、もう1つは青または黄色に反応した結果、補色的に色が浮かび上がったのです。
夜間飛行に備えるパイロットは飛行の1時間前に赤いゴーグルをかけるそうです。
波長と順応曲線を理解するとその意味がわかります^^
チャート3 聴覚
聴覚も視覚と同様に周辺の環境をからの情報を得るための重要なツールです。
例えば、横断歩道で信号待ちをしている時や、駅のホームでアナウンスが流れた際、聴覚からの情報が頼りになります。
その他にも、「音」は音楽を楽しむことや、コミュニケーションのツールとして私たちの生活と密接に関わっています。
3-1 音波
音は、物体の運動や振動から生じます。
何かが動くと、その前の空気の分子も共に押されます。
押された分子は、他の分子を押してから、元の位置に戻ります。このようにして圧力変化の波(音波)が空気中を伝わることとなります。これが音が伝わる仕組みです。
この音波は時間の関数としてグラフに記述できます。このような正弦波に対応する音は純音と呼ばれ、純音における重要な特徴は「周波数」と「振幅」です。
次の図は、音叉が振動した時に発生する音波を視覚的に表したものです。
この図から、「周波数」と「振幅」を以下の通り説明できます。
- 周波数とは、分子が前後に動く1秒あたりのサイクルの数です。
周波数は音の高さに関する知覚の要素で、音の高低は、高周波では高く、低周波では低く知覚されます。
- 振幅とは、グラフにおける山と谷の間の圧力の差です。
振幅は音の強弱に関する知覚の要素で、音の強弱は、振幅が大きい場合大きく、振幅が小さい場合小さく知覚されます。
第4章 感覚過程 図4-25 純音 より
ここでは、純音を取り上げましたが、もう一つの音における重要な要素として、「音色」があります。
音色とは、音の複雑さに対する私たちの経験のことです。
例えば、同じ中央ハの音でもバイオリンとトロンボーンでは異なる。これが音色の意味です。
3-2 聴覚系
聴覚系は両耳と脳のいくつかの部分と、連結神経伝導路からなります。
目と同じように、聴覚系にも2つの機構が含まれています。
それは、「音を増幅して受容器へ伝達する機構」と「音を電気インパルスへ変換する機構」です。
1つ目の機構は「音を増幅して受容器へ伝達する機構」です。
耳の縦断面図を見てみましょう。
音は外耳、中耳、内耳の順番で伝わります。
外耳は音を集めるのを助け、中耳の一番外側にある鼓膜へ音を送ります。
音によって中耳の鼓膜が振動し、それは中耳のつち骨、きぬた骨、あぶみ骨と呼ばれる3つの骨を振動させます。
そして、音は蝸牛と呼ばれる内耳へと格納されるのです。
第4章 感覚過程 図4-26 耳の縦断面図 より
蝸牛へ伝えられた音は電気インパルスへ変換されます。これが聴覚系の2つめの機構です。
第2の機構は「音を電気インパルスへ変換する機構」です。
内耳に位置する蝸牛は骨の螺旋状の管です。
この中は基底膜と有毛細胞によって構成され、膜組織によって液体の区域に分けられています。
蝸牛に伝わった振動は液体に圧力変化をもたらし、それが今度は基底膜を振動させ、結果として有毛細胞の曲がりと電気インパルスを生じさせます。
聴覚ニューロンはそれぞれがただ1つの有毛細胞と結合しています。
各ニューロンによって脳へ電気インパルスが送られることで、音を知覚することができるのです。
音の知覚は複雑な聴覚系の伝達プロセスによって成り立っていることがわかりますね^^
チャート4 ほかの感覚
チャート3までは感覚様相の特徴と視覚、聴覚について紹介しました。
視覚と聴覚は「高次感覚」と呼ばれるように重要なものですが、それ以外の感覚も重要です。
ここでは、その他の感覚のうち身近なものとして「嗅覚」「味覚」「痛み」を取り上げます。
4-1 嗅覚
視覚、聴覚の次に、なぜ嗅覚を取り上げるのか?
それは、嗅覚が私たちの種の生き残りを助けるからです。
なぜなら、人類は太古より、腐った食べ物を察知することや、食べ物のありかを探り当てる際には嗅覚に頼ってきたからです。
ここでは、「匂い」を知覚するメカニズムについて解説します。
嗅覚とは、物質の発する揮発性の分子が嗅覚に対して与える刺激のことです。
揮発性の分子は物質を離れると空気中に拡散し、鼻腔に入ります。
揮発性の分子が鼻に入り、鼻腔内の高いところにある嗅覚の受容器である繊毛に触れることで電気インパルスが発生します。
電気インパルスは神経繊維に沿って脳へ伝えられることで人は匂いを知覚します。
視覚の場合、色の符号化には3種類の受容器があれば良いことをチャート2-4で述べました。
しかし、嗅覚の場合はおよそ1,000種類の嗅受容器があるとされています。
これは、健康な人が1万から4万の異なる匂いを区別することができることからも、尤もな数値であると言えるのではないでしょうか。
イヌ嗅覚が人間の約100倍もの感度を持っているということが一般的に知られています。
これは、人の嗅受容器の精度が悪いのではなく、イヌの持つ受容器の数が人よりも10倍多だけなのです。
4-2 味覚
あなたは美味しい食べ物を食べた時に幸福感を感じるでしょう。
味覚は腐った食べ物を識別することで人の生命維持のために非常に重要な感覚である以上に、人の幸福にとっても重要な感覚要素です。
味覚に対する刺激は、唾液中で可溶性のある物質です。
味覚系は舌に位置する受容器のみならず、喉と上顎に位置する受容器を含みますが、ここで扱う味覚の受容体は「舌」に限定して紹介します。
味覚における刺激に対する感度は味が異なれば舌の場所によって異なります。
「舌」の各神経繊維は、4つの基本的な味にいくらか反応するものの、4つの基本的な味の1つだけに特に良く反応します。
その箇所を示したのが次の図です。
ここで、チャート1-1で取り上げた「丁度可知差異」を思い出してみましょう。
味に対する絶対閾は非常に低い一方、強度に関する丁度可知差異は20%と比較的高いです。
例えば、料理に辛さを加えたい時、あなたは20%以上の唐辛子を加えなくてはならないということです。
第4章 感覚過程 図4-30 味覚領域 より
味の感じ方は前述のような科学的な側面のほかに、精神的な側面も影響します。
プラスマン(Plassmann et al.,2008)らによる研究を紹介しましょう。
プラスマンは、被験者に対して「10ドル」と「90ドル」と書かれたワインを味わうよう指示しました。
その後、どちらがおいしかったかを集計した結果、被験者は「90ドルのワインが美味しい」と評価したのです。
このように、味覚という感覚の活性化には期待値のバイアスがかかることも覚えておきましょう。
舌の中心付近では味をあまり感じません。
ぜひ、嫌な(にがい)薬を置く場所としてみてはいかがでしょうか^^
4-3 痛み
痛みほど私たちに注意を促すものはありません。
痛みを感じなければ危険なものを危険であると認識しません。
もしも、熱いヤカンに触れても痛みを感じなかったら。あるいは、舌を噛むことに痛みを感じなければ。
痛みを感じなければ、組織が破壊されるような危険が伴うにもかかわらず、特にどうとも思わないはずです。
そのような、私たちに危険を知らせてくれる「痛み」ですが、痛みの質の際に関して最も重要なのは「一過性の痛み」と「持続性の痛み」です。
痛みには「一過性の痛み」と「持続性の痛み」があります。
- 一過性の痛みとは、怪我をして直ちに感じる痛みです。
一過性の痛みは、通常持続時間が短く、瞬間的に鋭い痛みを伴います。
- 持続性の痛みとは、怪我をした後で経験する類の痛みです。
持続性の痛みは、通常持続時間が長く、継続的な痛みを伴います。
これら2種類の痛みは2つの個別の神経伝達路に媒介されていて、これらの伝導路は最終的に皮質の異なる部分に達します。
「痛み」という不快感があるからこそ、人は危険を回避するために学習、行動することができます。
もし、痛みの感覚がなければ。
そのように考えると、少しゾッとしてしまいますね^^;
最後に
今回は『ヒルガードの心理学』の第4編について紹介しました。
ここまでの話をまとめると以下の通りです。
- 私ちの生活にはさまざまな刺激情報に満ち溢れており、情報は絶え間なく私たちに影響している。種々の実験により、感覚や触覚における強度の重要性が認められている。
- 人が目の前のものから何か情報を得たい時に真っ先に頼られるのが視覚であり、視覚が人間において最も精密に調整されている。
- 音は物体の振動や運動から生じる。聴覚はその他にも、音楽を楽しむことや、コミュニケーションのツールとして私たちの生活の助けになっている。
- 視覚、聴覚のほかに「嗅覚」「味覚」「痛み」が人間の生存を支える代表的な感覚情報である。
今回は人の感覚過程について紹介しました。
無味乾燥に聞こえるかもしれませんが、結論を言うと、人の知覚は、感覚受容器からの電気インパルスを脳が受け取った結果にすぎません。
そして、刺激をどのように知覚するかは丁度可知差異、信号検出理論によって明らかになっています。
ダイエット中の方や高血圧に悩んでいる方は調味料の量を少し減らすなどしているかと思います。
その際には、ぜひ人の知覚の仕組みを意識することで、少しでも楽しみながら取り組みを続けてみても面白いのではないでしょうか^^
最後までご覧いただきありがとうございました。
by ユメメ (╹◡╹)
ヒルガードの心理学の第4編の解説を通じて
このような疑問にお答えします!